発言HowTo

※前任校で書いた文書です。もう必要ないかも知れませんが、記録を兼ねて残しています。たぶんそのうち消します。

この文書は、たとえばゼミなどで発言のしかたがわからないという人のために作成しています。「普通に話す」ということが、特に大学生の頃は、実は大変難しいことなのです。しかし、これができないと、「コミュニケーション能力が不足している」などと判断されることがあります。いつもぺらぺら喋る必要はないですが、「いざというときにはきちんと話せる」という能力を身につけましょう。

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ひとつの発言を、一回のフライトだとイメージします。たとえば福岡空港から千歳空港まで飛んでいくわけです。そうすると、次のいくつかの段階があることがわかります。

  1. 飛行計画の作成
  2. 助走
  3. 離陸
  4. 上昇
  5. 水平飛行
  6. 着陸準備
  7. 着陸

発言において、これらは大まかに、次の段階に相当します。

  1. 発言内容の確認
  2. 心の準備
  3. 発言開始
  4. ツカミ
  5. 本論の展開
  6. 終了準備
  7. シメ(オチ)

以下、順に説明します。

飛行計画の作成

フライトを行うためには、どこを経由してどこに着陸するかをあらかじめ計画しておくことが必要です。発言するときも、何と何を言って、最終的に何を主張するか、ということを、あらかじめ確認しておくことが必要です。ただし、実際のゼミや会議では、あまり時間がないことが多いですから、これを瞬時に行う、あるいは、飛び立ったあとに喋りながら行うこともあります。

助走

発言する内容が決まったら、心の準備をしましょう。いわば助走です。フライトでもエンジン音が高くなって、加速が付いていくこのときが一番緊張します。発言するときも、ここが精神的にはひとつの山になりますが、ここで気持ちを高めておかないと、飛び立つことはできません。未来に向かって飛び立つくらいの気持ちで、自分の気持ちを高めましょう。

離陸

さあ、離陸しました。発言開始です。もう後戻りはできません。あなたは指名され、皆の注目が注がれています。フライト中でも最高度に緊張する一瞬です。ここはひとつ、全力を振り絞って、そのような視線を跳ね返しましょう。もしも、あなたが十分に冷静なら、あらかじめたてた飛行計画にしたがって、順調に次のステップに進むことができるでしょう。

極度に緊張して、この段階で頭が真っ白になったときには、最後の手段として次のように言います。

「はい!えーと、あれ?なんだったっけ?あ。すみません。何を言うか忘れました。」

上昇

離陸したら全力で上昇です。まだまだ気は抜けません。事故が起こりやすいのも、この離陸後の上昇期だと言います。この部分は、漫才などでは「ツカミ」と言いますね。発言の場合は、漫才ほど強烈なツカミは必要ありませんが、それでも、聞き手に興味を持ってもらうための気遣いは必要です。だれにでもわかる言葉をはっきりと述べましょう。それだけで、相手も自分も、ずいぶん落ち着くものです。

本論だけを考えて発言を開始すると、この段階で言葉に詰まり、黙ってしまう人がいますが、あまり格好のいいものではありません。特に、初対面の人が多い場合には、この部分で、あなたの第一印象は決まるわけですから、ある程度の慎重さが必要です。無難な決まり文句としては、

  • たいへん興味深い意見ですが、いくつか質問させてください。(反論するとき)
  • 基本的に、XXXさんの意見に賛成ですが、補足したいと思います。(賛成するとき)
  • XXXについて、別の例で考えてみたのですが、…。(反論・賛成)
  • まちがっているかも知れませんが、私が知っている範囲では…。(謙遜)
  • たぶん説明したと思うのですが、聞き逃したかもしれないのでもう一度説明してもらえるでしょうか。(謙遜)

このように、発言すること自体が、十分に注目を集める行為なので、発言の最初の言葉は、少し遠慮がちなのがいいようです。つまり、上と内容は同じでも、以下のように発言を開始するのは、あまりお勧めできません。

  • 言っている意味がわかりません。
  • そうそう!その通り!
  • そんなの、こう考えたらどうなるのよ。
  • …は~でしょ?だから、そうはならないでしょ?
  • XXXの説明がなかったので、ちゃんと説明してください。

また、万一、ツカミの部分がまったく思い浮かばなければ、変な間を入れることは避けて、次のように言いましょう。

「単刀直入に行きます」

水平飛行

離陸し、上昇も成功しました。いよいよ、本論を述べましょう。ここで大切なことは、「テンションを落として冷静になる」ということです。助走、離陸、上昇と、非日常的なテンションでがんばってきましたが、そのままのテンションで発言を続けると、大気圏外に飛び出してしまいます。ここは、いったんテンションを落とし、心の平静を取り戻して、水平飛行に移ります。

ここでは、極端に言うと、論理的な筋道に身を任せるだけでいいのです。高いテンションはかえって邪魔になります。また、サービス精神、余計な気遣い、愛想笑いなども、この段階では控えましょう。良質な聞き手であれば、ここではあなたの論理的思考能力に注意が向いています。発言者としては、自分は論理の奴隷である、くらいの気持ちでちょうどいいのです。

時々、この水平飛行の部分がない発言があります。われわれの世界(どこ?)では、それはフライトとは呼ばれず「花火」と呼ばれます。打ち上げ花火が上がるだけの会議っていやですよね。発言に理由の部分がないから、「なんでこう言うのだろう」と聞いた人は考えます。それが社会的な理由で聞きにくいときには「きっと自分が知らない理由があるのだろう」というところに落ち着くことになります。その結果、だれも説明できないことが知らないうちに会議で決まったりするわけですね。これは本当の会議ではありませんよね。皆さんは決してそのような大人になってはいけません。

着陸準備

水平飛行も順調に進んでいます。あなたは冷静になり、言おうとしたことを筋道立てて話しています。しかし、安心してはいけません。重要なことが残っています。そう。着陸準備です。

発言は、内容も大切ですが、「どのように着陸するか」ということも同じくらい大切です。理想的には、飛行計画を立てるときに、この着陸の部分(オチ、シメなどと呼びます)も計画されているといいのですが、実際はそこまで時間がありませんから、現実的には、この部分は発言しながら行うことになります。

だいたい自分の言いたいことが終わってきたら、もう一度テンションを高める準備をします。テンションを落として水平飛行をしていますが、そのままですーっと降りるのはなかなか難しいですし、尻切れトンボのように思われる危険もあります。ですから、水平飛行ではいったん落としたテンションを、もう一度ここでは上げて、緊張状態に自分をもっていきます。実際のフライトでも、「本機は、最終着陸態勢に入りました。シートベルトをしっかりとお締めください。また、ご使用になりましたテーブルは元の位置にお戻しください」などというアナウンスが入ると少し緊張します。この感じですね。

時々、着陸準備がうまくいかず、下りられなくなることがあります。よく準備されていないスピーチなどで、いつまでも話が続いて聴いている方がうんざりするということがありますが、あまり好ましいことではありません。言いたいことを全部言ってやるぞ、という勢いでいつまでも話す人を時々見かけますが、人間としての品性を疑います。長い話でも最長5分。雰囲気を見て着陸準備をしっかり行い、後味がさわやかな発言を目指しましょう。

万一、着陸準備がうまくいかず、下りられないことがわかったら、最後の手段として次のように言います。

「話しているうちにわからなくなりましたので、これで終わります」

このように言うことで、少なくとも自分の発言を終えて着陸することができます。ちなみに、この段階の処理を失敗して、変な雰囲気で発言を終えることを「空中分解」と言います。空中分解だけは避けたいものです。

着陸

さあ、着陸です。テンションは十分に高まって、再び緊張状態にあります。漫才では「オチ」と言いますが、当然の事ながら、教室や会議の発言にオチは必要ありません。しかし、漫才でオチが悪いと全体の印象が悪くなるのと同様、発言にも一種のオチがないと、落ち着いたよい印象の発言にはなりません。最後の力を振り絞って、発言を締めくくってください。

水平飛行の時にはあえて軽視していた、サービス精神、気遣い、敬語、愛想笑いも、ここでは復活させましょう。こうすることで、発言にメリハリがつきます。いくつか例を挙げます。

  • というような、いくつか質問をしましたが、お答えいただければと思います。
  • ともかく、XXXさんの意見に基本的に賛成です。
  • 以上、余計かも知れませんが、自分なりに考えたことです。
  • 私の誤解かも知れませんが、コメントをいただけますでしょうか。
  • もう少しこの点がはっきりすればと思います。

おわりに

さて、いろいろと書きましたが、要は経験です。皆さんが参加するゼミは、このような発言の練習として、うってつけの場所です。失敗を恐れずに、何度もチャレンジしましょう。ただし、漫然と失敗を繰り返すのではなく、これらのポイントを常にチェックするようにしましょう。ただ、すべてのポイントを常に意識するのは面倒ですから、そのときには、「福岡空港から千歳空港に飛んでいく」「離陸、水平飛行、着陸」というイメージを描いておくだけで、ずいぶん違います。あなたがこの技術を身につけて、将来、教室、会議室、面接室などで、見事なフライトを見せてくれることを願っています。

ご搭乗ありがとうございました。